優しい鎮魂歌 [その他]


拍手叩いてくださった方ありがとうございます!!励みになります…^^*


今日は鉈と幽谷で。
カプにはしきれなかったので今回はプラスです。
少しばかり薄暗い話になりました…でも最後は僅かに浮上。
大丈夫だぜ!という方は続きからどうぞー^^









鉈はよく、猫を連れて登校してくる。
本人曰く「勝手についてくる」そうなのだが、頻繁にともなると偶然ではないのではないかという疑問さえも浮かんでくる。
ついてくる猫は大抵野良で、首輪も何もつけていない。
可哀想だからと部員の中で誰か飼える奴はいないかと聞いてまわったこともある。
だが、大体愛猫家でもない限り、一家に一匹で十分なのだろう。
かろうじて了承してくれた部員たちも、それ以降は申し訳なさそうに首を横に振るばかり。
監督も、5匹までは許容してくれたのだが、6匹目を連れて行くとさすがに頭を振られた。
この話をするだけでも、鉈が連れてくる猫がかなりの数である事は予想してもらえるだろう。
数匹は勝手に部室付近や学校付近に住み着く始末で、もはや鉈1人の手に負える程度ではなくなっていた。
ならば、鉈自身が飼えば良いのではないか。という意見も随分最初の方に出たのだが、
鉈は生憎マンション暮らしで、何より親がアレルギー持ちなのだそうだ。
自分ではどうしようもない分、貰い手が見つからなかった猫を見るときの鉈は、どこか寂しげだった。
鉈は面倒見が良い。その上責任感も強いので、野良猫だろうがなんだろうが、自分を頼って来たそれを放っておく事が出来ないのだろう。
そんな鉈が、今日もまた新しく猫を連れて来た。
普段ならば、猫は鉈の足下にまとわりつくようにやってくる。
だが、今回は鉈自身が、そいつを抱きかかえてやってきた。
そいつは、綺麗な黒い毛並みの猫だった。

「今回は、ついて来たんじゃないんですか?」
「道端でぐったりしてたんで、つい」
「ついって…とりあえず、大丈夫なのかよそれ」
「病院にでも連れてった方がいいんじゃないかなぁ」

わらわらと鉈の周りに集まる部員が、心配そうに猫を覗き込む。
鉈の腕に身を預けて、動こうとしない黒猫。
何かの病気なのだろうか。それとも怪我か。お腹がすいているのか。
様々な予測が飛び交うが、何にせよ原因は一切分からない。
猫の知識なんてろくにない自分たちがここでこうして話していても埒があかないだろう。
そう考えた鉈は、監督に相談し、今日の部活を欠席して病院へと向かう事にした。
放っておけない性分なのだ。彼は。








「鉈先輩!」

部活が終わり、幽谷は気になって鉈の向かった病院へと足を運んだ。
待合室の方で椅子に腰掛けていた鉈に声をかければ、弾かれたように顔を上げる。
顔色は仮面のせいで全く見えない。何があったのか、幽谷には分からなかった。

「あの猫、どうでしたか?」
「衰弱していたらしい。今、診察中だ」
「そうですか…」

二人で心配そうに診察室を見やる。
外からでは中の様子は一切見えない。大丈夫なのだろうか。と不安に思っていると、
鉈が、不意に口を開いた。診察室の方を眺めながら。

「あと、身ごもっているらしい」
「…えっ…?」
「赤ちゃん、いるそうだ」

そろそろ生まれる時期だったらしい。
そう呟く鉈が、俯く。
衰弱した中で、妊娠している。それが何を指し示しているのかは、医療関係の知識がない2人にだって、十分分かった。
危ない。あの黒猫も、黒猫が身籠る子供も。

「多分、大丈夫ですよ」
「…ああ」

信じて診察室を眺める事しか出来ない自分たちを、随分無力に感じた。






しばらく経って、開いた扉の奥に通される。
そこでは、金色の目の黒猫と、3匹の子猫が、みゃあみゃあと鳴いていた。


心底安心した2人に、新しい問題が降り掛かる。
この4匹の猫の、飼い主だ。
部員たちにも知り合いにも、もう当てはない。かといって、幽谷も鉈も猫を飼える環境下にいない。
病院側も飼い主を探せるように協力してくれると言ってくれたが、見つかるまでの間、4匹もの猫を預かれる状況にもないという。
このまま野放しにしするのも気が引ける。下手をすれば保健所行きだ。
せっかく生まれた命なのに。
鉈は、後先を考えずに、一端猫を全部引き取った。
段ボールの中でみゃあと鳴く猫を抱えて、途方に暮れた。
やはり鉈の表情は読めなかったが、幽谷には鉈が呆然としている事がよくわかった。
セオリー通りだ。猫を拾って、連れて帰っても親に「家では飼えません」と怒られもとの場所に返してくるように言われる。
でも、返せない。必死に鳴き声を上げる猫を放っておけない。
そんな子供が取る行動は、案外決まっているもので。

「学校の近くに、神社。あるじゃないですか」
「…?」
「そこ、そこで飼いましょう。二人で面倒見れば、多分、大丈夫でしょう」

家で飼えない猫は、神社やお寺の境内、空き地等で飼うと相場は決まっているのだ。
どこまで頑張れるかは分からないが、やらなければならない。
翌日、その事を部員に説明すると、皆も協力してくれるという。
それから数日、時間がある者が様子を見に行く。ということで猫たちの世話は滞りなく進んでいた。
皆も案外楽しそうに世話をしてくれるので、問題は一切ないように思われた。


思われて、いた。





夕暮れ時に、幽谷はいつも通りに神社へと足を運んだ。
猫たちは、人目につかないような場所に隠してある。
そこまでたどり着いた時、先客の姿を見つけて、幽谷は笑顔で名前を呼ぶ。
だが、振り返ったその顔を見て、幽谷は思わず足を止めた。
目の前には、いつもと変わらない、白い鉈の仮面があった。
仮面に変化はない。当たり前だ。
だが、その仮面の顎辺りから、ボタボタと雫が滴り落ちる。
仮面が濡れている訳では、なかった。

「…鉈、先輩…?」
「…………死んだ」

鉈のつぶやきは、仮面越しで聞き取りにくかった。だが、確かに聞こえたその言葉に、耳を疑った。
慌てて駆け寄り、鉈の手の中を覗き込む。
そこには、子猫のうちの1匹が、ぴくりとも動かない状態で横になっていた。
親猫に似て、綺麗な黒い毛並みだった。

「…そんな、なんで…」
「昨日までは、元気だった」

猫の世話を一番熱心にしていたのは鉈だった。
自分が連れて来たということもあるのだろうが、責任感の強い彼だ、飼い主が見つかるまでは。と意気込んでいた。
だが、そのうちの1匹が、今、動かなくなってしまった。
再び鉈の顔を見る。何の代わり映えもない白い仮面の下から、止めどなく雫が溢れる。
無表情を貫き通す仮面の下で、彼が泣いているのだ。と、ようやく理解した。

「………悪い…」

呟く声は小さかった。

「……………悪い…」
「鉈先輩の、せいじゃないです」

皆で世話をした。皆で気にかけて来た。
鉈1人のせいではないのに、彼は懸命に謝っていた。
よくも悪くも真っすぐなのだ。だから、ここまで責任を感じている。
埋めてあげましょう。という幽谷の呟きに、鉈は無言で頷いた。
きっと、彼は仮面の下でこれ以上にないほど弱々しい顔をしているのだろう。
無言で穴を掘り、その中にそっと猫を横たえる。
浅くて小さいその穴の中に、猫はすっぽりと収まった。
まだ、こんなに、小さいのに。
土をかぶせて、手を合わせる。幽谷も、泣きそうだった。

「…幽谷」
「?」
「ちゃんと、成仏、しただろうか」

自分には見えないから。と呟く鉈に言われて、辺りを見回す。
幽谷が来ていない間に成仏したのなら、その是非は幽谷にはわからない。
だが、ぐるりと巡らせた視線の先にある、猫を入れた段ボール箱の中。

「残念ですけど」

幽谷につられて、鉈もその中を覗き見る。中には、親猫と子猫、合わせて3匹の姿。
幽谷の方を見れば、僅かに、微笑んでいた。
彼には、見えているのだろう。


「まだ、他の皆と一緒にいたいみたいです」



幽谷には、4匹の猫が、見えている。



「…そうか」
「成仏しないのはあまりよくないかもしれませんけど、1人で遠出するには、小さすぎますから」

だから、安心して良いんですよ。と鉈に微笑む幽谷。
その言葉に、鉈は無言で頷いた。
表情は相変わらず見えなかったけれど、なんだか僅かに、笑っているような気がした。


****************************
猫に関する知識がないので猫が一度に身籠る数が結構適当です。
1匹だけだったらどうしようね^^←
動物に懐かれやすい鉈先輩は可愛いと思う。

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

75話量より質 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。