翼のないコウモリ 2 [土受け]


豪土の続き。次で完結。
ここらからゲームのストーリーが容赦なく絡んできます。
1ヶ月以上前の記憶なので多少違っていても気にしないでくださいー…(笑)


それでも良い方は続きからどうぞ!!








最初は義務。
次は羨望。
最後は恋慕。

徐々に変化して行く自分の彼を見つめる視線に困惑した。
けどこのまま自分の感情に従えば、きっと自分は帰る場所を失ってしまう。
だから、言わないでおこうと思った。
そう決めていたのに、その対象から言われた好きだの一言。
そして、自分の全てを分かっていながら「雷門にいろ」と言ってくれた。
それだけで十分だった。思ってくれているのなら。それだけで。
だからもう怖くない。


俺は、大好きなあんたを守るために、ひとりぼっちになろうと思う。












「…ば、爆弾!?」
「そうだ。バスにこれを仕掛けて、会場に着く前に皆を出場できなくしようって言うつもりだったのさ!」
「どういうことですか!冬海先生!」

皆のどよめきが大きくなる。
バスに仕掛けられた爆弾を手に、土門は無言だった。
冬海が、負け惜しみのように土門もスパイである事を暴露する。
皆の視線が、痛かった。
音無によって部室に呼び出される皆の背を見送り、土門は職員室へと走る。
きっと、部員の情報が入ったメモ帳紛失のことだろう。
その在処なら、土門は知っていた。なぜなら自分が持ち出したのだから。
だからこそ、土門は走った。
最後に皆を守るためにできることをしようと決めたから。

メモ帳を渡しに部室へ入るのも正直怖かった。
どうせここを去るのなら、全てすっきりさせてから、自分の思いを知ってもらってから出ていこうと、
部室に入る前にメモ帳に手紙を挟み込んだ。
これでもう、戻れない。そう覚悟し、ゆっくりと部室のドアを開ければ、皆の視線が突き刺さる。
知っている。この視線は軽蔑のそれだ。
しかし、その中でも円堂の瞳は真っすぐで、それが逆にいたたまれない。
土門は音無にメモ帳を渡し、部室を後にした。
出て行く前に見えた豪炎寺は、悲痛な面持ちでこちらを真っすぐ見つめていて。

土門は、それから逃げるように扉を閉めた。






2つの敵対した場所、両方で良い顔をしようとして。

そうしたやつは、最後にはどちらにも相手にされず、一人になるのだ。


昔、そんな話を読んだ気がする。
結局、その後そいつはどうなったのだっけ。
土門は静かに空を仰ぎ見て、表情を引き締める。
覚悟は出来た。決心した。後戻りなんてできない。

俺は、いまからひとりぼっちになりに行く。


「土門!!」
「ここは俺に任せとけって!お前らはやることあるだろ?」
「だけど!」
「円堂」

皆の方は見ずに、正門から逃走する冬海を見ながらなるべく明るく振る舞う。
冬海がいなくなった今、雷門には新しい監督が必要だ。
でなければ、これだけ頑張ったのにフットボールフロンティアでこれ以上戦えない。
後ろで悔しそうな円堂の声が聞こえた。
こういう時冷静な風丸がいてくれて本当に助かる。

「…無茶、するなよ!!」

その言葉が、逆に痛いのだと、きっと円堂は分かってくれないだろう。







部室に戻った豪炎寺は、一人眉根に皺を寄せ、天井を仰いでいた。
以前河川敷で見た土門の顔が忘れられない。
「雷門にいればいい」と言ったことが、結果彼がこの場所から離れるきっかけになったように感じる。
まだ付き合いは短いが、きっと彼はそういうやつだ。
心を許した相手を守るためなら、自分を犠牲にする。そういうやつだ。
豪炎寺はギリ、と拳に力を入れる。こういうとき、何も出来ないなんて。
一人自分を責め立てる豪炎寺の前で、カツリと靴音が響いた。
その音に弾かれるように視線を降ろせば、複雑そうな顔をした夏未がいた。

「……あなたは、気づいてたんでしょう?」
「…………」
「無言は肯定と取るわよ」

顔を背けた豪炎寺を、夏未はなおも見つめる。
夏未自身も土門の行動に不審な点をいくつか見つけてはいた。
だが、確証が持てない分、責める訳にも行かず結局今まで黙っていたのは事実。
夏未はそれ以上豪炎寺を追求する事もなく、静かにため息を吐いた。
静かで重苦しい沈黙が、2人の間に訪れた。

「…ここに…」
「?」

「ここに、いてほしかっただけなんだ」

ぽつりと呟かれた豪炎寺の言葉に、夏未は伏せていた目をそちらに向けた。
豪炎寺の瞳はどこか遠くを見つめるように窓の外に向けられていて、
夏未は「そう」と短く返事を返すだけで、あとはまた長くて重苦しい沈黙が流れるばかりだった。
そんな空気を一気にぶちこわすかの様に、爆発でも起こったのかと思うような音が部室に響く。
春奈が部室のドアを壊れんばかりの勢いで跳ね開けたのだ。

「たっ…た、大変ですっ!!」
「どうしたの!!」

血相を変えて部室に飛び込んで来た春奈は息を切らせながら、携帯電話をずいと前に出す。
着信履歴の一番上に表示された「木野先輩」の文字。
嫌な、予感がした。


「木野先輩からっ…電話が、あってっ…!!
 土門先輩が黒いスーツの男たちに鉄塔の方へ連れて行かれたって!!
 木野先輩一人で助けに行くつもりです!!」


春奈の叫びを聞き終わるか聞き終わらないかのタイミングで、豪炎寺は駆け出していた。
夏未の声を背中に、豪炎寺はなりふり構わず鉄塔へ走る。





勝手にひとりになりにいった彼を、もう一度連れ戻すために。



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