翼のないコウモリ 1 [土受け]


豪土。
…1っつーことは2とか3があるって訳です。3くらいで終わります。

土門が帝国スパイだったというネタに賞味期限はないと信じてそこら辺の話です。
ゲームの方のストーリーに沿っていますが、ゲームやってない方も雰囲気で…!(爆)
それでも良いという方は続きから!!
勢いで書いたからぐだぐだかもしれない(笑)






コウモリは、「私はほ乳類です」とライオンたちに言いました。

コウモリは、「私は鳥類です」とワシたちに言いました。

そして結局コウモリは、どちらにも仲間に入れてもらえず、


ひとりぼっちに、なってしまいました。









秋葉名戸との試合もごたごたがあったものの勝利をし、
いよいよ目前まで迫った宿命の帝国学園との試合へ向けて練習に精が出るころ。
夕暮れ近くまであった練習を終え、豪炎寺は帰路についた。
河川敷沿いを夕日を眺めながら歩いていると、ふと、自分と同じように
夕日を眺めてぼんやりと座っている人影を見つけた。

「…土門?」

おかしい。彼の家はこちら側ではないはずだ。
豪炎寺は首をひねり、しばらく遠巻きから土門の事を見やる。
その背中は今は誰にも話しかけられたくないと拒絶の色を見せていたが、
豪炎寺は構わずその背中に近づいた。
それが、拒絶以上に、寂しさを雄弁に語っているように思えたから。

「土門」
「…ッ!!?」

声をかけられるとは思っていなかったのか、かけられた声が見知った人のものだったからか、
必要以上に土門は肩をびくつかせ、後ろを勢いよく振り返る。
豪炎寺の姿を捉えたその瞳が様々な色を内包して見開かれ、そして曖昧に笑う。
その笑顔はいつもの彼らしくないへたくそな笑顔だった。

「お前の家は別方向だろ?」
「…あー…いや…ちょっと黄昏れてみたくなって…?」

夕日、綺麗ですし。とやはり曖昧に笑う。
すぐに反らされた土門の視線に、豪炎寺は寂しいものを感じながら、その背中を見る。
以前までだったら、理由はどうあれ彼の視線は自分を捕らえたら離さなかったのに。
自分のものより大きい背中は、今はなんだか小さく見えた。

土門の様子がおかしくなったのは、秋葉名戸戦前からだっただろうか。
彼自身は普段通り振る舞っていたつもりだろうが、所々で不審な点が見られた。
…帝国からのスパイとしてではなく、土門個人としての不審な点が。
豪炎寺が土門の事情を知ったのは早い段階でだった。
帝国側としては豪炎寺の能力を把握する事を第一に考えていたのだろうか。
土門はよく豪炎寺と一緒に行動したがったため、必然的に一番長く一緒にいる形となってしまった。
そのせいもあってか、豪炎寺は徐々に変化していく土門の感情の機微を察知したのだ。
スパイだと分かっても豪炎寺は別段気にしなかったが、妙に心の奥底が痛んだ。
自分と一緒にいたのは、つまりは自分の力を探ってこいと言われたからなのか。
そう思うと同時に、妙な悲しさが襲って来たのを、覚えている。

「…なあ、土門」
「?」

土門の横に立ち尽くしたまま、土門を見やる。
視線だけを豪炎寺に向ける土門は、やはりどこかぎくしゃくしていた。
彼は、隠したがっている。自分が本当は雷門の裏切り者だという事を。
だが豪炎寺にとっては、スパイだのなんだのどうでもよかった。
雷門でサッカーをしていたときに見せた土門の笑顔は、本物だと信じたかった。

「………俺は、知ってる」
「!!」

指示語が全くない短い言葉。
それだけでも土門は豪炎寺が何を言いたいのか察したのだろう。
見る見るうちに土門の顔が青ざめて行く。
痛々しいまでのその変化に、言い方を間違ったかと豪炎寺は僅かに後悔した。
違うんだ。俺は、お前を責めたい訳じゃない。
豪炎寺が言葉を続けようと口を開くよりも先に、土門が弾かれたように立ち上がった。
自分よりも背の高い土門を見上げ、豪炎寺は慌てて土門の腕を掴んだ。
土門の体が、極端にびくつく。

「待て!!」
「…っ」

なおも逃げようと暴れる土門を、懸命に抑える。
すがるように両手で土門の腕を引き寄せ、無理矢理に自分の方を向かせた。
初めて正面から見た土門の顔は、今にも泣きそうに歪んでいて豪炎寺は更に逃がすまいと腕を掴む力を強めた。

「豪炎寺さ…」
「俺は、お前を責めたい訳じゃない!」

だから、逃げるな。
強い瞳で、真っすぐに見つめる。
豪炎寺の気迫にひるんだのか、思わず土門の体から力が抜けた。
その後は、ただただ俯き、ひたすらに「ごめんなさい」と呟き続ける。
震える肩は彼が泣いている証拠で、豪炎寺は静かにその背中を撫でた。
きっと、ずっと前からこうして泣いて、謝りたかったのだろう。
スパイをしている。という事に負い目を感じていることが分かって、豪炎寺は何故か安堵した。
土門は雷門が嫌いな訳ではないのだ。そう思っただけでも酷く安心した。

「…俺、雷門サッカー部やめます」

ひとしきり泣いた土門が呟いた言葉に、豪炎寺の思考は思わず停止した。
上げられた土門の表情は、どこか諦めたような笑顔で、胸が苦しくなる。
本当はやめたくないのだろう。だが、そうしなければ彼がいたたまれなくなってしまう。

「土門…」
「サッカー部やめて、雷門も出て行こうと思います…」
「帝国に、戻るのか」
「………多分、無理でしょうね。それは」

諦めたように、笑う。
その笑顔の真意が見えなくて、豪炎寺は困惑した。
雷門を出て行く。帝国にも帰れない。
だったら、土門は、どこへ行くというのだろう?

「だったら、雷門にいろ」
「…え」
「俺は、誰にも言うつもりはない」

驚く土門の腕を再び強く掴む。

「誰かに言うつもりなら、もうとっくに言っている」
「なんで…?」


「言わなかったら、バレなかったら。お前とずっと一緒にいられると思ったんだ」


ふと笑みをこぼす豪炎寺を、惚けたように土門は見つめる。
訳が分からないとでも言いたげなその視線に、豪炎寺は苦笑を漏らした。
帝国に帰れないという事情は何故かは知らない。
だが、だったらまだ居場所のある雷門にいてほしかった。
これはただの豪炎寺のエゴだった。
きっと、秘密を隠して居続けることは土門にとっては苦しい事だろうから。
それでも、土門にそばにいてほしかった。


「好きなんだ」


一言だけ。愚直なまでに一直線に、気持ちをぶつける。
惚けたままだった土門の顔が、みるみる真っ赤になって行く。
言った言葉は戻っては来ない。これで、ただでさえ苦しい土門の胸中をさらに苦しめることになる。
身勝手な自分を罵りながら、土門を見れば、真っ赤な顔で今にも泣き出しそうに頭を垂れていた。


「…すみま……せん……っ!」


ただ、一言だけ。ストレートな拒絶の言葉。
一瞬動きが止まった豪炎寺の腕を振りほどき、土門は駆け出す。
後ろから呆然と見つめてくる豪炎寺の視線を背中で感じながら、土門はひたすらに逃げる。
中学生にもなってぼろぼろと泣きながら、涙を拭おうともせずに。
苦しかった。けれど、豪炎寺に言われた事により、少しだけ楽になった。
更に告げられた好きだと言う言葉に、土門は泣きながらも悪戯っぽく笑った。
どこか楽しそうに、どこか、悲しげに。


これでやっと、決心がついたよ。


鞄を握る腕に、思わず力が入った。


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