その笑顔が離れない [鬼受け]

帝国VS世宇子後。シリアスな源鬼です。
これ書いたのずいぶん前な気がするんですがなんか発掘しました(爆)



あの凄惨たる光景を目の当たりにして、数週間。
フィールド内で倒れ伏す仲間の姿は、
数週間という時間を費やしても消えてはくれなかった。
なかでも、歪に歪曲したゴールは特に酷かった。
当たり前だ。相手は点を取りに来ている。一番集中して攻撃される場所だ。
そこを最後まで懸命に守ろうとして、手ひどくやられたあいつの顔が、一番忘れられなかった。



「鬼道。鬼道!!」
「!」

耳元で聞こえた大声で、意識が一気に現実に戻ってくる。
驚いて声のした方を見やれば、そこにはキョトンとした顔で突っ立っている円堂の姿。
大丈夫か?と眉根に皺を寄せて訪ねてくるから、大丈夫だ。と曖昧な笑顔を返す。
世宇子と再戦し、仲間の敵を討つべく、雷門に転校したのだった。
と、目の前で不安げな顔をする円堂を見て思い出す。
最初はなかなか慣れなかった雷門での生活も徐々に慣れ始めたところ。
すまなかったともう一度詫びを入れ、練習に戻ろうとする。

「鬼道!」

ぐいっと、おもむろに円堂にマントの端を掴まれ、後ろに倒れそうになる。
なんとか踏ん張り、眉根に皺を寄せて振り返れば苦笑いをする円堂の顔。
何故だかその顔に、つきりと胸が痛んだ。

「なんだ?」
「いや、さ…」

言いにくそうに笑いながら、頭をかく。
しばらく視線を彷徨わせながら、手に持っていたボールを弄ぶ。
円堂がここまで躊躇うのは珍しい。
躊躇うというよりは言葉を選んでいるのだろうか。
鬼道は静かに円堂の次の言葉を待った。

「…絶対勝とうな!!フットボールフロンティア!!」

ぐっと、ボールを突き出されて、言われた言葉に拍子抜けする。
なんだ。いつも言っている事じゃないか。
呆れたようにため息をつきながらも、鬼道はしっかりと力強く頷いた。

「当たり前だ。帝国の仲間のためにも勝つ」
「おう!」

お互い目を合わせ力強く笑う。

「でもさ、あんまり一人で無茶するなよ」
「え…」

ふと、円堂の笑顔が和らいで鬼道を見る。
鬼道は一瞬何の話かとキョトンとする。

「一人じゃないんだからな!皆でやるサッカーだ!!辛い事とかあったら、言えよ!」

力強く、見ていると安心できる笑顔。
円堂が本当に言い淀んでいたことはこれだったのか、と頭の片隅で推測する。
叫ぶとすぐに走ってゴールまで行ってしまった
円堂の背中を見つめ、またツキリと胸が痛んだ。
思い出すのだ。円堂を見ていると。彼のあの大きな掌を。






『鬼道。俺たちのサッカーを、するんだろう?』

そういって、人の頭に勝手に手を置く。
こんなこと許してやるのはこいつくらいだ。少し抗議するような視線を向けてやれば、
力強い笑顔を返された。ああ、本当にこいつにはかなわない。

『すまないな。どこまでも俺につき合わせて』
『気にするな。俺たちはどこまでもお前について行くよ。鬼道。
 だから何かあったらこの前みたいに言ってくれ。必ず、力になってみせる』

その言葉がどんな言葉よりも、誰の言葉よりも心強かった。
なれなかったら、悪いけどな。などと源田は苦笑しながら頭をかく。
それでもいい。と短く言えば、源田はキョトンとした後無言で鬼道の頭を乱暴に撫でた。

『お前の後ろは守ってみせる。だから、安心して戦ってこい』

俺たちのサッカーを、しにいこう。
そう言って、臨んだ世宇子戦。


源田は鬼道に言った通り、鬼道の後ろを守り抜こうとして、重傷を負った。



「…源田…」

円堂の笑顔を見ると思い出すんだ。あの笑顔を。
どこか似ている。と思った。思ってしまった。
思ってしまった途端、急に今まで感じなかった悲しさや、苦しさがこみ上げて来た。
涙は頬を伝いはしない。ゴーグルの中に貯められていく。
誰も見ていないのを確認して、ゴーグルをずらし、乱暴に涙を拭った。
それでも止まらない涙に、鬼道はゴーグル越しではなく、赤い瞳で直に空を見る。
急に気づいた。気づかせられてしまった。

ああ、源田。
俺は、お前のことが、大好きだったんだ。

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