飛ぶ鳥 [土受け]
相変わらずな一土。
今回ちょっと短めです。
「飛鳥」
期末考査の勉強中に、いきなり一之瀬が呟いた。
古典の教科書に預けていた視線を一之瀬の方に向ければ、
彼はまだ教科書に目を向けたままだった。
教科書は歴史。まだ最初の方のページで止まっていた。
「飛鳥」
「分かんないのか?」
自分の教科書にシャーペンを挟んでしおり代わりにして一之瀬の方に身を乗り出す。
その声でようやく一之瀬は土門の方を見やり、首を横に振った。
「土門と同じだなと思って」
「飛鳥文化?」
一之瀬が開いているページはちょうど飛鳥時代の解説ページで、
そういや自分の名前も飛鳥だったなと今更な事を考える。
だって、親以外に誰も下の名前で呼んだりしない。
「綺麗だよね。なんか『飛ぶ鳥』って書くところも、響きも」
「そうか?」
ニコニコしながら教科書の文字をなぞる。
俺ここだけ勉強頑張ろうかななんて言うから、軽く頭を叩いてやった。
そうすると、拗ねたような顔をした後、にこりと笑う。
そして、教科書に視線を戻し、また「飛鳥」と呟いた。
よっぽどその言葉の響きが気に入ったらしい。
だけれども、同じ名前を持つ土門としてはなんだかむずがゆくて、
再び読み挿していた古典の教科書を取り自分の勉強に戻る事にした。
「そんなに気に入ったのか?」
しばらく経ってもたまに思い出したかの様に呟く一之瀬に、
土門が視線は教科書に向けたまま呆れたように呟く。
対する一之瀬の方も、教科書に視線を向けたままだった。
しばらく、沈黙が流れる。
「うん。好きだよ。飛鳥」
綺麗だよね。とまた同じ事を言うから、不意に視線を上げる。
すると、先ほどまで教科書に向けられていたはずの一之瀬の視線は、
しっかりと土門の方を捕らえていて。
「好きだよ」
ニコニコと笑いながら、そんなことを言うものだから。
察しが決して悪くない土門は一之瀬の真意を確実に捕らえ、赤面する。
机に立てられた教科書にずるずるとへたり込むように顔を隠した土門が、
くぐもった声で「馬鹿野郎」と呟くのを聞いて一之瀬は満足そうに笑った。
2009-09-29 00:24
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