Please kiss me! [土受け]


一→土。
土門が一之瀬の事を「手のかかる友達」くらいにしか思ってない感じで。
くっついてないくせにいつも通りです。
そしてタイトルをつけるセンスをください。





「よし、土門。キスしようよ」
「…はい?」

パン。と膝を叩いて、真剣な顔をして何を言うかと思えばそんなこと。
土門は心底呆れたような可哀想なものを見るような目で一之瀬を見る。
しかし、そんな土門の視線にひるまないのが一之瀬一哉その人である。
臆する事なく、再度同じ言葉を繰り返した。

「キスしよう」
「いやいやいやいや。待て。お前は一体何をどう経てそういう思考に至ったわけ?」
「至っていつも通りの思考でこういう考えに至った訳だよ」
「お前はいつもそういうこと考えてんのか」

呆れてもう物も言えない。
ひたすらにキスをねだってくる一之瀬を、土門は軽く受け流す。
その扱い方はさすがというか手慣れたもので、ついに一之瀬は真剣な態度を崩した。
……非常に悪い方向に。

「あー!もー!!どーもーんー!!」
「……なに」

今度の態度は完全にだだっ子のそれだ。
一体こいつはねだるときの態度をいくつ持ち合わせているのだろう。
さすがにつき合うのに疲れたと言わんばかりに、土門が億劫そうに一之瀬の方を向く。
一之瀬は完全にむくれていた。

「なんでそんなにつれないのさ!!俺の事嫌いなの?」
「普段のお前は嫌いじゃないけど今の一之瀬は嫌いかもしれない」
「…………え」

冗談で、手にしていたサッカー雑誌に視線を戻しながら言い放つ。
そうすると、さすがにそれには堪えたのか、一之瀬の声が一気に沈んだ。
急に騒ぐのを止めて、「嫌い…」と呟きながら膝を抱え始める。
なんというか、こういうところは扱いにくい。

「……一之瀬」
「…土門が、俺の事嫌いって…嫌い…嫌い…」

悪い事をしたつもりはないのに、何故か一之瀬の態度を見ていると
とんでもないことをしてしまったような気分になる。
それほどの落ち込みようだ。実際今の一之瀬の瞳には光が灯っていない。
まるで呪詛のように「嫌い」と呟き続ける。
…さすがに、怖い。

「一之瀬」
「………」

名前を呼んでも無反応。拗ねている。これは完全に。そしてついでに凹んでいる。
そもそも、いきなりキスしようなんて言って来たそっちが悪い訳で、
別にこちら側に謝る要素も何もあったもんではない。
むしろ謝られるのはこっちのほうじゃないのか。
男同士でキスとかそんな、あり得ないだろう。
一之瀬の方はどうか知らないけれど、こちらはファーストだ。そうやすやすと譲れない。
…などというのはいささか乙女な思考なのだろうか。
頭の中をぐるぐるといろいろな考えが巡って行くが、
結局は体育座りを決め込んでいる目の前の拗ねた親友を放ってはおけなくて。
いつだってそうなのだ。なにか諍いがあったときは、必ず自分が折れるはめになる。

「一之瀬。悪かったって。嫌いは言い過ぎた」
「……土門」
「お前の事嫌いじゃないから、な?」

だから機嫌直せよ。なんて苦笑まじりに言ってやれば、あっという間に機嫌を直すのがこいつで。
瞳を輝かせながら、本当に?とでも言いたげな視線を向けるこいつにかなう気がしない。
どのみち、自分が一之瀬にとことん甘いだけなのだろうが、それはそれで仕方がないこと。
なぜか目の前のこの男には辛くあたれないのだ。昔から。

「ほんとに嫌いじゃない?」
「ああ」
「じゃあ好き?」
「うん」

ほら。すぐに笑顔になる。
どれだけ馬鹿だのなんだのと罵った後でも、それが本心でないと分かれば一之瀬はすぐに機嫌を直すのだ。
こういうところは、すごく扱いやすい。

「じゃあ、キスしよう!!」
「それは無理」

そして、学習しないのもいつものことなのだ。
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