抱きしめたい抱きしめたい愛してる [鬼受け]


タイトルはやはり「ユキツバキ」さんから。今回は『星ときらめきと涙』よりいただきました。


源→鬼でシリアス。
真帝国戦終了後あたりでお願いします(笑)
では、続きからどうぞー。






何もない天井をただ見つめる。
それにも飽きたので、どうにかベッドの背もたれを利用して上半身を起こした。
そうするだけでも激痛の走る腕に、後悔と罪悪感を一気にかき立てられる。
自業自得だと分かっていても、迫り来る負の感情を振り払えない。
ああ、今ならば本当に心の底から何かを憎むことができそうだ。
…例えば、自分だとか。


「源田?どうした?」

時間は真夜中。自分の横に同じくベッドに横たわっていた人物の声に、
眠れなかったのは自分だけではなかったのか。と頭の端で思う。
横を見れば、仰向けの状態で、首だけをこちらに向けた佐久間が居た。
佐久間は、自分より重傷だ。皇帝ペンギン1号を限界である3回も放ったのだから。
それに比べれば、自分はまだ軽い方だ。
首以外にうまく動かすことができない佐久間に、苦笑を向け、眠れないだけだ。と返す。
帰ってきたのは、「そうか」という短い返事だけだった。

「…鬼道さんは、ああ言ってくれたけれど、本当に、許してくれると思うか…?」

鬼道。
名前を聞いただけで、ずきりと心が痛む。
誰よりも強かった。誰よりも仲間を思ってくれていた。
そんな彼の思いを踏みにじった自分たちは、彼を傷つけ、心配させることしかできなかった。
他に、もっとかける言葉があっただろうに。…憎しみに負けていなければ。
優勝おめでとうだとか、これから頑張れよ。だとか。
自分たちは弱すぎた。自分たちが思っている以上に。ただ、それだけ。
だけど、その弱さを、鬼道は許してくれた。受け止めようとしてくれた。

「……鬼道は、優しいから」
「ああ」
「けど、俺達は…」
「………」

優しい彼に、合わせる顔がない。
鬼道が許してくれたとしても、自分たちが自分自身を許せない。
そうして、自分たちが彼に会うことを拒めば、鬼道はさらに傷つくだろう。
分かり切っているのに。なのに。

「なあ、源田。俺、もし鬼道さんにもう一度会う機会があったら本気で謝ろうと思う」
「………」
「頭、地面にこすりつけるくらい謝って、…まあ、多分鬼道さんのことだからそんなことしたらさらに心配するだろうけどよ。
 それでも、自分の気の済むまで謝ろうと思う」
「………」
「それで、また、同じフィールドでサッカー、するんだ」

ふと、横目で見た佐久間は、弱々しくはあるが、笑っていた。
今回の件で一番参ってしまったのはこいつかもしれない。
尊敬の念が憎しみに変わって、散々自分も、鬼道も傷つけて、
そしてそれが誤りだったと気づいたときには動けないほどボロボロになっていて。
それでも、笑っているこいつは、きっと、強いのだろう。
…俺よりも、ずっと。

「…佐久間…?」

気づけば静かになった隣を見やると、いつの間に眠ってしまったのか、静かな寝息が聞こえた。
ふと、笑みをこぼし、視線を窓の外にずらす。
窓にくりぬかれた空には、三日月が浮かんでいた。
こうして、病院のベッドに再び横になり始めてから、どうしても鬼道のことが頭から離れない。
それほど自責の念が強すぎるのだろう。
悔いて、悔いて、それでもまだ悔やみきれない。
佐久間のように前向きでいられない。
なぜだろうと、そんなに自分は弱かっただろうかと、頭をフルに回転させる。
世宇子にやられたときも、不動に憎しみを増幅された時でも、ここまで鬼道のことを考えたことはなかった。
散々頭を悩ませて、ついに辿り着いた答えは、思わず苦笑が漏れるものだった。

「…鬼道」




ああ、俺はどうやら、お前のことを想像以上に好きだったらしい。




帝国に居たときから、想ってはいた。だが、まさか、ここまでだとは。
離れて、傷つけて、その後悔の念の異常な大きさから、やっとのことで自覚した。
なんて嫌な自覚の仕方だろうか。
思わず頭を抱え、嘲笑する。
酷いことをした。傷つけた。裏切った。
嫌われるだろうか。距離を置かれるだろうか。見損なわれただろうか。見損なわれただろうな。
そんな思いが増長して、鬼道への後悔と自責の念が必要以上に膨らんだ。
きっと、鬼道は怪我が治った俺達に会ったら、笑って、「よかった」と言ってくれるのだろう。
知っている。彼は仲間思いだから。優しいから。
だけれども、きっと、鬼道が笑ってくれれば、その分俺は死ぬほど苦しい思いをするのだろう。
ああ、最低だ。大好きなお前を、あんなにも傷つけておいて。

「…すまない…鬼道…」

それでも、それでもまだ、彼を愛している自分が居る。
会いたい。会って、謝って、許してもらって、そしてかなうならば抱きしめたい。
そんな資格などないはずなのに。彼に触れたくて仕方がない。

「……鬼道…好きだ……」

呟いた言葉は、嗚咽と一緒に夜の静寂に滲んで消えた。

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