9月の海 [土受け]


とりあえず季節ネタやっとけ。とか。時季はずれですけど!
なんかどっかに出かけさせてみたかったんです。いちゃつきよって。
一土なら海岸で「捕まえてご覧なさい☆」「あはは待て待て」的なものをナチュラルにやりそうで怖い。
それが一土クオリティ…。恐ろしい子たち…。


まあそれはともかく続きからどうぞー。今回はほのぼの。
ところで海開き終了(?)っていつですかね。海水浴行った記憶がないんで分からん。






「土門!海行こうよ!」

いつもいつも突然突拍子もない事を言い出す奴だということは
長い付き合いから理解していた。
だけれども、それについていけるかどうかはまた、別の問題である。

「……また、いきなりだなぁ…」
「いきなり行きたくなったんだよ」

だから行こうよ。なんて理由になってない事を。
しかし、それを突っぱねる事が出来ない自分はやっぱり一之瀬に甘いのだろう。





「さすがに人がいないなー」
「まあ、夏休み終わってるし、夕方は風が冷たいからなぁ」

無人の海岸を2人で眺める。
8月まっただ中ならばここは未だに人でごった返している事だろう。
しかし、今は9月。海に来る人はほとんどいない。
今海に入ればきっと冷たいを通り越して寒いと感じるかもしれない。
そんな曖昧なライン。

夏は終わろうとしている。

「9月って言っても、昼間は暑いんだよなぁ」
「昼に行きたくなれば良かったね」
「ほんとにな」

一之瀬が唐突に思いついたのは4時もすぎたころ。
まだまだ明るいとはいえ十分夕方の部類に入る時間帯だ。
でもせっかく来たんだから。と靴を脱ぎ、波打ち際に一気に駆け寄る一之瀬。

「今年は海来れなかったからさ!遅くなったけど満喫したかったんだー」
「部活もあったしなー」
「いっそ皆で海に来たら良かったね」
「…反対する奴はいなさそうだな」
「来年は皆誘って行こうか」
「だったら今度は8月中な」
「あはははは!!だな!」

早くも来年の事に思いを馳せて、一之瀬は水面を蹴る。
徐々に水平線にむけて沈み始めた太陽の光に反射して、飛沫がキラキラ光る。
ああ、夏も終わるなぁ。なんて本当は8月の終わりに思うのだろうけど。
9月になっても暑い今ではこの寂しい気持ちが延期されて今わき上がって来ても誰も文句は言うまい。

「土門は入らないの?」

脱いだ靴を両手にぶら下げて、ふとこちらを見て首を傾げる。
土門はそんな一之瀬の視線に曖昧な笑みで答える。
正直気持ちは半分半分だ。うんともいいえとも言えない。
確かに今年初めての海はシーズンは逃したものの魅力的だ。
だが、濡れた状態で肌寒い夕方の道を帰るのは少々気が引ける。
しばらく何も言わない土門の方をじっと見ていた一之瀬だったが、
しびれを切らせたのか、なんなのか。靴を砂浜に放り投げ、早足に土門の方に歩み寄る。
そして、有無を言わせず手を掴み、一気に引っ張った。

「うわっ…」

そのあとは、想像通り。
バシャン。という清々しいほど豪快な音と共に派手に水しぶきが宙を舞う。
完全に不意打ちの状態で一之瀬に強く引かれた土門は、
波打ち際の濡れないギリギリに立っていたせいもあって豪快に頭から海に落ちた。
その際、海底に石などがなかったのは不幸中の幸いだろう。
溺れないようにと反射で上半身を勢い良く海から引き起こす。
手も足も、十分につくような浅瀬だが、引きずり込まれて状況について行けず、
気づけば水の中で惚けていたため窒息死しました。なんて、シャレにならない。
驚きと、軽く感じた生命の危機に荒く肩で息をする土門を、一之瀬が引きつった顔で見る。
怒られる。これは確実に怒られる。
本能がそう感じているのか、全身ずぶ濡れになった土門がゆっくりと立ち上がるのを眺めながら、
一之瀬は一歩一歩後ずさっていた。

「いちのせぇ…」
「…っ!ご、ごめん!土門!!」

殴られる事も怒鳴られる事も覚悟して、目を瞑る。
しかし、いつまでたっても殴られも怒鳴られもしない。
おそるおそる目を開けると、そこには勢いよく水面を蹴ろうとしている土門の姿があった。

「やりやがったな!!」
「っぶ!!」

力一杯蹴られた水面は予想以上に大波を立てて、一之瀬に覆いかぶさる。
ああ、土門って結構キック力あるよね。なんて関係ないことを考えてみる。
ぽたぽたと髪の先から水を滴らせ、ぽかんとしていると
同じような状況の土門が、実に楽しそうに笑っていた。

「っはは!!仕返しだ馬鹿!」

今まで海に入るのを躊躇っていたのが、ずぶ濡れになった事でいろいろ吹っ切れたらしい。
本当に楽しそうに笑う土門を見ているとやり返された事とか、
今自分がずぶ濡れな事とか、いろいろどうでも良くなってきた。
ただ、土門が楽しそうなのが嬉しくて。悪のりしてもいいよな。とか。

結局そのあと、お互いがずぶ濡れを通り越して水浸しになるまで散々はしゃいだのだった。


「…あー…一之瀬の馬鹿野郎ー…」
「土門だって楽しんでたじゃん」
「まあ、楽しかったけど。どーすんのこれ」

疲れて海岸に上がって、ようやく気づく自分たちの状態。
頭のてっぺんからつま先まで水浸し。このまま帰れば風邪を引くし何より親に怒られる。
途方に暮れて、2人で海岸に腰を下ろして海を眺めた。

「じゃあ乾くまでここにいようよ」

太陽は海の向こうに先っぽだけ飲み込まれていた。
その言葉に思わず視線を一之瀬に向ければ、冗談を言っているような表情ではなくて。
思わずため息が漏れた。

「明日の朝までここにいたって、絶対に乾かないと思うけど」
「じゃあ、明日の夜までいようよ」
「無茶言うねぇ」

笑いながら言えば、隣からも笑い声が聞こえた。
さきほどの言葉は冗談のようだ。
じゃあ、日が沈むまで。とねだられて、一之瀬に甘い土門は苦笑いを浮かべて頷いた。
濡れた服越しにあたる風が冷たい。
太陽は止まっているように見えるほど、ゆっくり海に飲み込まれて行く。

「来年もさ、来ような」
「皆で、8月にな」

一之瀬の呟きに、先ほども告げた言葉を返せばわかってるよと笑われた。
8月の海はきっと今より賑やかで、華やいでいるのだろう。
来年が楽しみだな。と一之瀬に笑いかければ、柔らかい笑顔が返って来た。

「で、9月にまた、2人で来よう」

いいよね。なんて笑顔で言うのはずるいと思う。断れないだろうが。
なんだか恥ずかしくなって、思わず一之瀬から視線をそらした。
横で、一之瀬が笑う声が聞こえる。


「…りょーかい」

太陽はじれったいほどにゆっくりと沈んで行く。
一之瀬がもう一度、来年が楽しみだな。と呟いた。
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