夕暮小道、喧噪、声 [その他]


今日は久々に鉈幽。
夏だ!尾刈斗だ!怪奇現象だ!というノリで書いていたのですが、
久々の鉈幽すぎて鉈先輩の口調忘れていたなど…
ちょっとベルガ混ざってる気がしてならないのよ…。


そ、そんなわけでばっちこいという方は続きからどうぞー!


















学校の裏には、小さな神社がある。
木々が鬱蒼と生茂る小さな山の中腹あたりに、葉の緑にまぎれて赤い鳥居が一つ生えているのがその証だ。
その神社へ行くための石段は苔むして、ところどころから雑草が生えている。
誰か参拝客がいるのだろうか。と首を傾げたことは何度かあったが、
他の皆に聞いてもその石段を上っている人を見かけた事はないらしい。
忘れられてしまったのか、それともそこまでご利益のない神社なのか。
よくは分からないし、知ろうと思うものも誰もいなかった。

そんな神社が、幽谷の通学路の途中に存在していた。
部活が終わって、片付けをした後皆と帰路につくのだが、他のメンバーと別れた後に通る事になるのがこの神社の石段の前だ。
夕暮れ時の道。夕焼け色にそまったコンクリートの地面を眺めながら歩き、ふとその石段を見上げる。
延々と続く道。上り坂。一番上は見えない。
伸び放題に伸びた木の枝達が、その先に何があるのかを教えてくれないから。
そこを眺めながら、幽谷は目隠しの下で思わず顔をしかめる。

「うるさいですね」

ぽつりと呟いた声は、大した大きさではなかったのに辺りにするりと響き渡る。
ミンミンと鳴き喚く蝉の声はまだ夏本番ではないからか控えめで。
それをさした言葉ではないとその場に誰かがいればそう思う事だろう。
だが通行人は幽谷以外誰もいない。
1人の、蝉が僅かばかりに鳴く道で、幽谷は「うるさい」と呟く。
実質、彼にとってはその場は耐えられないほどやかましかった。


彼の鼓膜を介してしか聞こえない声が、耳元で騒ぎ立てる。


そう言う力が幽谷にはあった。
はったりでもなんでもなく、純粋に見えないものが見える力が。
聞きたくはなくても嫌でも耳に入るその身の毛もよだつ喧噪は幽谷がそこを通る度に響き渡る。
不快で、耳障りで、いつも足早にそこを立ち去るのがいつもの日課だ。
だって、あんな場所、長居したくない。気がおかしくなりそうだ。







「じゃあなー!幽谷!」
「また明日」

次の日の部活帰り。
みんみんと鳴く蝉の声は相変わらず控えめで、自分とは真逆の方へ遠ざかって行く部員達を見送りながらその声を聞いていた。
さあ、自分も帰ろうか。と思った時だった。

「幽谷」

特徴的な、くぐもった低い声が耳をくすぐる。
振り返った先には鞄の紐を肩にかけ直しながらこちらを見やる仮面が一つ。
ああ。この人の声は、好きだ。

「どうしたんですか?」

普段ならば鉈も他の皆と同様に自分とは逆方向へ帰るはずだ。
だが、他の皆は行ってしまったというのに今なおそこにいる彼に違和感を覚えて首を傾げる。

「いや、この前サッカー雑誌貸しただろう」
「…ああ。あれですか?」

鉈に言われてふと一冊の本を思い出す。
買おうと思っていた月刊誌だったのだが、忙しさのせいで買いに行けず、気づいた時には次の号が出ていて凹んでいた時期があった。
だがその時にたまたま鉈が購入しているという噂を聞き、借りてそのままだったのだ。

「すみません、ずっと借りてて…」
「いや、それは気にしなくていいんだがな。実はその雑誌にメモを挟んだままだったのを思い出してな…それだけでも回収したいんだが…」
「あ。そうなんですか?」

それくらいならば容易い事だと思い、鞄を漁ってハッとする。

「すみません…今日持って来てないです…」
「予想はしていた。もしいいなら今からお前の家に行ってもいいか?」
「え、あ、は、はい!」

なるほど、だからここで立ち止まっていたのか。と合点する。
二人で、幽谷の家へ続く帰路につく。
間間に他愛もない話や、部活の話を何度かかわし、久々の1人ではない下校路を楽しんだ。



「…あ」


そして、気づけばあっという間に自分の家の前で。
ふ、といつもよりもスムーズに帰宅できた事に違和感を覚える。
はて、何が、違ったか。

「幽谷?」

かけられる低い声に反応して、そちらを向けば、家に帰るまでずっと一緒にいた鉈の姿。
耳をくすぐる、好きな声。
ああ。そうか。
今日はあの石段前で聞こえる声が、聞こえなかったのだ。
今日に限って静かだったのか。そんなはずはない。
気づかなかった?いや、まさか。
いつもと違う部分を探せば、考えられる事は一つしかなくて。
思わず顔が熱くなって、慌てて雑誌を取りに家へと入る。

ああ、そうだ。


自分は周りの声が気にならないくらい、きっと彼の声に夢中になっていたのだ。


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他の事に夢中だと周り気にならなくなるよね。って話。
アニメの鉈先輩の声好きですよ^^



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