くろぶち [エイリア]


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さあ、小説のストックが本当に少なくなってきたぞ…。
今回キューベルです。なんかもうキューベルは全部「過去、そして現在に至る考察(だったか)」と繋がっていると見てもらった方がいいかもしれません。
むしろ今回は前に上げた「手の鳴る方へ」を先に読んでいただいた方がいいかもしれない。
そんな内容です。でも別に暗くはない。


大丈夫!という方は続きからどうぞー^^









紅白戦をやる。というガゼルの号令の元で2チームに別れての練習が始まった。
普段は個々で練習をしたりする機会が多い中で行われたこの紅白戦は、
滅多にやらないということもあり、全員が全員いつも以上に気合いを入れて練習に望んでいた。
1チームの人数は試合よりも少ないものの、全員試合さながらのプレーを見せる。
時間も残り僅かとなった時、リオーネにしっかりとマークされたブロウが、大きく弧を描くようにボールを蹴り上げた。

「アイキュー!!」

ブロウの声とほぼ同時にアイキューが構える。
だが、ボールの落下する位置と速度が微妙なせいもあり、蹴る事が叶わない。
前方を見れば自分と違うチームに分けられたドロルが突っ込んで来ており、見過ごせば相手にボールを取られてしまう。
やむをえない。とアイキューは跳躍し、ヘディングでボールを弾きにかかったのだが、どうやら角度がマズかったらしい。

「だっ!!?」
「あ、アイキュー!?」

アイキューの鈍い声があたりに響き、思わずボールを追おうとしていたドロルが声を上げる。
それと同時に笛が鳴り、紅白戦は終了を迎え、何があったのかと他のメンバーもアイキューの元へかけよる。
見れば、痛そうに目頭を押さえながら眼鏡を外すアイキューの姿。

「…まいったな…」

その手には、フレームが見事に歪んでしまった眼鏡が握られていた。





「兄さん、大丈夫?」
「俺は平気だけど眼鏡が…」
「フレームって高いんだろ?あーあ。やっちまったな」

呆然として眼鏡を見つめるアイキューに皆が皆労いの言葉をかけて行く。
アイキュー自身にはたいした怪我もないらしく、ぴんぴんしているのを見て、皆安心したように苦笑する。
他の皆が練習に戻る中、ようやく人の波が引いたところから、ベルガが顔を出す。
その姿を見て、アイキューはあわてて眼鏡をかけたのだが、フレームが歪んでしまっているせいで片目にしか眼鏡があっていない状況だ。
そんなアイキューを見て、ベルガは思わず苦笑した。

「無理にかけなくてもいいだろう」
「いや、こうしないとよくみえないからさ」
「…そうか」

ヘラリと笑うアイキューに、ベルガは一つ頷く。
幼少期の経験もあってか、「見えない」ということに一番敏感なのはベルガだ。
「見えない」というアイキューの言葉を聞いて、ベルガはそれ以上何も言及する事なく、一言「大丈夫か?」とだけ問う。

「被害があったのは眼鏡だけだよ。まあ、フレームが顔にぶつかって痛かったのはあるけど、怪我はないよ」
「そうか」
「もー!兄さん無茶したら駄目だからね!」

アイキューの隣に腰掛けていたアイシーが、ここぞとばかりに説教を始める。
あのときは別に無理に取らなくてもよかっただのヒヤヒヤしただのと隣で文句を言うアイシーにぐうの音も出ない。
彼女は彼女なりに心配しているのだろう。それが分かっているからこそ,アイキューは素直にアイシーの文句に苦笑しながら頷いていた。

「そもそも!眼鏡っていうのが危ないのよ!いい加減コンタクトにしたら?」

ビシリとアイシーに指差され、アイキューは驚いたようにアイシーの顔と指を交互に見つめる。
怒ったような顔をするアイシーは本気らしく、眼鏡も壊れちゃったしちょうどいいでしょ?などと話を進めようとする。
強引なことの進め方に思わずアイキューは勢い良く首を横に振った。

「まっ、待った待った!!俺はこれでいいんだよ!」
「なんでよ!?邪魔でしょ!」
「いや、確かにこういうときは邪魔だけどさ、とにかくこれでいいんだよ!」
「邪魔なんだったら除けるに越した事ないでしょ!?」
「いいんだってば!」

必死にコンタクトへの移行を拒絶するアイキュー。
そんな兄の様子に終いには堪忍袋の緒が切れたのかアイシーはもう知らない!!と言って肩を怒らせて他のメンバーの元へ言ってしまった。
思わぬところで妹を怒らせてしまったアイキューがふと視線をやれば、ベルガと目が合い、苦笑された。
それに対して、アイキューも苦笑を返す。
兄妹喧嘩など日常茶飯事だが、こんなみみっちいやりとりを見られるのはそうそうない。
どうにも恥ずかしくて、思わず目をそらした。

「アイシーの言う通りだと思うがな」
「…え?」
「コンタクト」
「………」
「その方がこういうことも起きないだろう」

そう言いながらアイキューの歪んだ眼鏡を軽く指差す。
確かに、ちょっと痛かったのだが、それでも眼鏡を止めたくない理由があった。
アイキューは曖昧な笑みを返す。

「…いや、まあコンタクトを使用している状況で顔面にボールがぶつかり、
 そのまま目の中でコンタクトが割れてこれ以上の惨事になることもありえるか…」
「…うん。そういう理由じゃないんだけどなんか余計眼鏡でいたくなったよ」

真面目な顔をして、恐ろしい事を呟いたベルガに引きつった笑みを向ける。
おそらく悪気はなかったのだろう。思案するように顎の下に当てていた手を外し、慌ててぶんぶんと横に振る。
すまない。などと本気で謝ってくる彼の姿を見て、アイキューは思わず吹き出した。

「いや、いいよ。ベルガらしい」
「…すまない」
「それにさ、そういうことがなくてもこの眼鏡をかけていたいんだよ」
「?」

アイキューの言葉の意味が分からず首を傾げるベルガ。
そんな彼にニコリと笑みを返し、コツコツと歪んでしまった黒いフレームを指先で叩いた。


「これがあって、黒い髪が俺だからさ」


楽しそうに笑うアイキューに、ベルガが思わずはっとする。
先ほどの言葉には聞き覚えがあった。
随分昔の話。自分の目がまだほとんど見えてなかったときの話。

『ベルガって、どれくらい見えてるの?』
『…少しだけ』
『人のかおって見えてるの?』
『あまりよくは見えない。たまにだれがだれか分からなくなる』
『そっかぁ。見分けるの大変そうだね』
『でも、アイキューは分かるぞ』
『え?』
『黒いかみはいっぱいいるけども、黒いかみでコレをつけてるのはアイキューだけだ』

自分が、彼を彼だと認識していた最大の要因。
ぼやける黒い縁取りのそれを触ったときに、その奥の目が笑った気がして嬉しかったのを覚えている。
それを、彼も覚えていた。

「だが」
「?」
「私は、もう見えている」

アイキューの輪郭も、瞳の形も、歪んだフレームの曲線の細部まで。
全てをクリアに見渡せるようになった目に、一体何が起こったのかはわからない。
ただ、見えるようになった。とアイキューに告げた後の彼の表情がどこか悲しそうだったのを、今でも覚えている。
見えるようになったことを嘆いたのではないだろう。と思う。
アイキュー。と名前を呼んだ時、ベルガの頬をはしる縫合痕が僅かに歪んだ。

「何?」
「……それがなくても、私はもう、お前がお前であることがよくわかる」
「うん」
「無理に外せとは言わないが」
「じゃあ、つけさせてほしいなぁ」

アイキューは笑う。
嬉しかったのだ。昔、他の皆と違って自分の事は間違えない。と言ってくれた言葉が。
自分だけ彼にとって特別なのではないかと、嬉しくなったのだ。
その証でもあるこれが、いつになっても手放せなくて。
壊れても、壊れても、同じフレームを必ず購入していた。
黒いフレームの眼鏡が、彼にとっての自分だから。


「これはもう、俺だからさ」


眼鏡は体の一部です。とか、いうだろ?
そう冗談めいて返せば、ベルガが僅かに微笑んだ。


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