会いたい逢いたい遭いたい、 [鬼受け]


久々に源鬼。
タイトルの方は前回同様「偽笑ピエロ。」さんからいただきました。
『叶わぬ恋で10のお題』より。

なんか前にも別のお題で似たようなタイトルあった気がする…。







大丈夫。きっと。大丈夫。
そう言って心を落ち着かせ続けてどれくらい経ったのだろう。
鬼道はただただ、病院の一室へ通じる扉のノブを握りため息をついた。
久々に戻って来た東京。稲妻町。
皆と共に、入院してしまった雷門中のメンバーの見舞いに行った後、
鬼道の足は気づけばこの病室の前へ向けられていた。
気になってはいた。何度も連絡しようとした。
だが、震える指は通話ボタンを押してはくれず、メール画面さえ開けなかった。
連絡を一切取らずに、突然の訪問。
どんな顔をするのか想像もできなくて、鬼道は静かにため息をはいた。
そして、見上げたドアの横に書かれた、何度も何度も携帯の電話帳画面で確認した名前。


『源田幸次郎』の文字を、じっと見つめた。


真帝国の一件以来、皆自分のことを許してくれていると分かってもなお、
心の中にわだかまりが残っていた。
例え皆に「構わない」と言われても、自分の気持ちが収まらなかったのだ。
そう言えば、他の連中に『鬼道は真面目すぎる』と笑われるかもしれない。
だが、この一件に関して自分は驚くほど臆病になっていた。
真帝国で佐久間と源田から向けられた敵意のある視線。
憎しみと憎悪と嫌悪のみが宿った視線を、今でも時折思い出して恐怖する。
そうか、これが、仲間に見捨てられるという感覚。
彼らと同じ気持ちを、帝国の皆は感じたのだろうか?
そう考えただけで罪悪感と自分への憤りが全身を支配する。
果たして、自分にこの扉を開ける資格はあるのだろうか。
これでもし、再び源田から敵意を向けられたら。
それは他の誰に裏切られることよりも、見捨てられることよりも恐ろしいことのように思う。
ある程度の覚悟はしているのだ。自分はそれを向けられて当然のことをした。
しかし、その事実に泣き出しそうになる自分がいるのも確かなことだった。
嫌だ。嫌われたくない。見捨てられたくない。拒絶されたくない。
だだっ子のような感情が一気に襲いかかる。

(…俺らしく、ないな)

苦笑して、うなだれる。なんて馬鹿げているのだろう。
自分は彼に嫌われても仕方のないことをしたのに、
それでもなお、彼が好きなのだ。どうしようもなく。真っすぐに。
その事実に気づいて一層苦しくなる。
扉を開けてしまえばそこには会いたい奴がいるのだろう。
だが、開ける勇気が、ない。

「!」

不意に、ポケットに入れた携帯電話が震え始める。
病院内は使用禁止だぞ。と冷静なことを考えつつ、ディスプレイの名前を見た。
…絶句。
そこには、扉一枚隔てた先にいるであろう、大好きな人の名前。
すぐに鳴り止んだ携帯を開き、メールボックスの新着メールをおそるおそる開く。
そこに並んでいた文面は、非常にシンプルなものだった。

「………お前は…」

がらり。と先ほどまでの躊躇を感じさせることなく軽やかに扉が開く。
その一室のベッドで上半身を起き上がらせたまま、濃紺の瞳がこちらをみる。
手には、しっかりにぎられた携帯電話。

「気づいていたなら、もっと早く行動しろ」
「悪い」

強がりだなんて百も承知で悪態をつけば、ヘラリと笑って謝られた。
その笑顔は、昔と何も変わってない。
開きっぱなしだった携帯電話を、再び少しだけ見て静かに閉じる。
そこには、本当にシンプルな1行の言葉。





『俺も会いたいから、入ってこい』




少し、泣きそうになった。


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