物より思い出。 [土受け]


バレンタインリクエスト消化第2弾!!一土ですー。
さすがにバレンタイン本番アニメ感想だけとかないですからね!!ちゃんとあげますよ!!
ひっさびさに書いたなぁ…^^;
「一土」でリクエストしてくださった方のみお持ち帰りOKです。無断転載は止めてくださいね!
万が一サイトとかに載せていただけるという場合はご一報してくださいませ^^


では、続きからどうぞー^^










毎年毎年、俺たちは『バレンタイン』という行事で心配する事はなかった。

一之瀬はもともとあの顔だからモテた。
それもあるけども、なにより俺たちには秋がいた。
バレンタインになったら必ずチョコレートの入った袋を3つ持ってやってくるのだ。
一つは一之瀬、一つは俺、もう一つは西垣に、って。
だから「今年も一つも貰えなかった」という嘆きを味わった事はない。
そのせいか、少しだけ、自分はバレンタインという行事に疎くなっていたのかもしれない。



「はい。土門君」
「ん?」

ニコニコと笑みを浮かべながら一つの可愛らしい袋を差し出してくる秋に、思わず土門は首を傾げた。
はて、今日は何の日だったか。

「今日、バレンタインでしょう?」
「………あ…!」

苦笑しながら秋に言われ、土門はそこでようやく今日が何の日なのか理解する。
そうだそうだ。2月の14日はそう言う行事があるのだった。
男として大事なイベントを失念していた事に自分自身に苦笑いを浮かべる。

「悪ぃ。忘れてた」
「じゃあこれ、いらないかな?」
「いいえ。喜んで受け取らせていただきます」

おどけて深々とお辞儀をしてやれば、秋はクスリと笑ってじゃあどうぞ。と袋を差し出してくる。
毎年毎年貰う度に腕の上がる彼女の料理センスはお菓子作りに関しても遺憾なく発揮される。
そんな彼女から義理だろうがなんだろうか手作りがもらえるのだから、喜ぶ以外ないだろう。

「今年はサッカー部員全員分作ったから大変だったのよ」
「部員増えたしなぁ」
「今皆に配って回ってるの」
「後何人?」
「…2人…かな?案外皆、一緒にいるから渡しやすいの」
「円堂の場合は渡しづらいだろ?」
「…も、もう!!土門君ったら!!」

茶化せば顔を真っ赤にして可愛らしく怒鳴られる。
秋の本命は円堂だ。というのはサッカー部内では当の本人以外は認識済みだ。
昔は誰が秋の本命を貰えるかで喧嘩をした事もあったが、それももうできないだろう。
少し昔が懐かしくなって、わずかに微笑む。
そう言えば、今日は一之瀬に会っていない。

「でも、今年は一之瀬君にはフラれちゃった」

思い描いた人物の名前が、突然秋の口から飛び出して些か驚く。
秋の顔を見やれば、眉尻を下げて少し残念そうな顔をしていたが、どこか楽しそうでもあった。
ふられた、って。一之瀬が?秋を?

「まさか」
「ううん。本当なの。さっき屋上へ行こうとしてた一之瀬君に声かけたんだけど、
 今年は本命からしか受け取らないんだーって言って、断られちゃった」
「本命………?」

一之瀬君にも本命、できたんだね。なんていう秋の言葉は既に土門の耳には入っていない。
土門の思考は、秋の言葉によってつい数日前まで飛んでいた。
そう、あれは屋上で昼飯を食べていた時。彼が誇らしく言った言葉。

『昔は秋の義理チョコ貰って喜んでたけどさ、あれは多分本当に好きな奴がいなかったからだと思うんだ』

快晴の空を見上げて、その晴れ渡った空のように、笑って。
こちらを向いて。

『だからさ、今年は土門からしか貰わない事にするんだ!!』

照れる素振りも見せないで、むしろ誇らしげに、楽しそうに。
そんな事言われて、こっちは顔が死ぬほど熱いというのに。
そう言った後、一つ、大きく頷いた一之瀬。
それでいいんだ。と言わんばかりに。





「……あいつ、本気だったのか…」
「? どうしたの?」

昔大好きだった秋のチョコを受け取らなかった。
多分、待ってる。あいつならずっとまってるだろう。日が暮れたって、どうなったって。
土門は思わず屋上へ向かって駆け出した。
自分が、彼に渡せるものを何も持っていない事でさえ、忘れたまま。















「…っ一之瀬!!」
「土門」

勢いよく扉を開ければ、いつかのように快晴の空の下で微笑む彼。
無性に申し訳なさが競り上がって来て、一之瀬の元へ駆け寄るや否や、土門は頭を下げた。

「悪ぃ…!!忘れてた!!」
「…だと思った」

教室にいても、渡しに来てくれないんだもんなぁ。なんて、困ったように笑いながら言うから、
土門は罪悪感で頭が上げられない。
まさかここまで本気だったなんて思わなかった。
自分の事を本命だと言い切ってくれた嬉しさと、それに答えられなかった申し訳なさで、土門の頭はいっぱいだった。

「土門、謝んないでよ」
「けど…」
「俺、土門がここに来てくれただけでも嬉しいんだからさ」

土門の顔をいきなり覗き込んできた一之瀬の顔は、本命にバレンタインを忘れ去られていた人物の表情とはかけ離れていた。
本当に、嬉しそうな,笑顔。

「…来たはいいんだけど、俺、何にも準備できてなくて…」
「やっぱりかぁ」
「悪い!」

残念そうに呟く一之瀬に頭を下げて手を合わせて謝れば、
どうしようかなぁ。なんて意地の悪い言葉。
でも声は笑っているから、多分怒ってはいない。それだけでも土門は安心できた。

「いいよ。じゃあ一つだけお願いきいてよ」

弾んだ声に、弾かれたように土門は顔を上げる。
ニコニコと笑う一之瀬は、何を思ったのか土門の手を掴み、屋上の端へと連れて行く。
飛び降り防止のためなのかなんなのか、屋上をぐるりと隔離するように張り巡らせた緑のフェンスががしゃりと揺れる。
気づけばそこは、二人だけの空間だった。

「授業、さぼってよ。ついでに部活も」
「え?」
「で、下校時間になるまで、俺と一緒にいてほしいんだけどな」

にこりと微笑む一之瀬に叶う気がしない。
まさか三度の飯よりサッカー好きな一之瀬が部活もさぼれ、なんて。
驚きで固まっている土門の額を、背伸びをして軽く小突く。
予想よりも勢いのあったそれに、思わず額を抑える。
くつくつと、下の方で楽しそうに一之瀬が笑っていた。

「チョコとか、すぐなくなるものはいいからさ、土門と一緒にいさせてよ」

だったら、俺、ずっと今日の事覚えてられる気がするから。
微笑みながら、自信を持って言われるその台詞に、思わず顔が真っ赤になる。
俯いたって、耳まで熱いからきっとバレている。
その証拠にやっぱり下の方で楽しそうにカラカラ笑う一之瀬の声が聞こえた。

「…安上がりな奴…」
「俺といるとお得だろ?」
「はいはい」

つき合ってやるよ。なんて、照れ隠しに上から出てやる。
嬉しいなぁ。なんて、冗談のように聞こえる声に、一之瀬の喜びが滲んでいてむず痒い。
屋上の隅に二人で並んでしゃがみ込めば、本当にこれだけで許してもらえるのか不思議でならなくなった。

「でもさ、本当にこんなことだけでいいのかよ?」
「俺は満足だけど」
「でもなぁ」

一之瀬はううん。と唸った後、何かひらめいたように土門へ向き直る。
本当に、楽しそうな顔で。

「好きだよ」
「…っ!」
「俺は土門がいちばん好き」
「お前なぁ…!」
「土門は?」

笑顔で問われれば、答えない訳に、行かないだろう。
本当に、ずるい。


「…俺だって、好きだよ」


真っ赤になって呟けば、一之瀬はそれが当たり前かのように朗らかに笑う。
近くに投げ出されていた土門の手をしっかりと握って、その手に僅かに口づける。
そうすれば、土門がまた真っ赤になる事くらい理解しての犯行だ。



「それだけで、俺は十分」



最高の贈り物だよ。なんてきざな台詞、こいつだから許されるのだ。
呆れながらも頬が緩む自分が、心底目の前の男に絆されていると自覚させられてしまう。
その後は日が暮れる手前まで、二人で肩を寄せ合って他愛もない会話をして。
それだけで、一之瀬は満足してくれた。
最高のバレンタインだったよ。と帰り際に微笑みながら言われたのが、本当に照れくさくて。
思わずマフラーに真っ赤になった顔を埋めた。




***************
甘い、と感じていただければ私の勝ちです!!(何)

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