死因:喜び死 [エイリア]


バレンタインリクエスト消化第1弾!
と、いうわけでゼルデザになります。今日から順次上げていこうと思いますー。
「ゼルデザ」でリクエストくださった方のみお持ち帰りOKです。無断転載は止めてくださいね!
万が一サイト等に載せるという場合はご一報よろしくお願いします^^


では、続きからどうぞ^^
単なるギャグになりました。ゼルが暴走するのがいけない。











バレンタインには本来チョコレートを贈る等という習慣はなかった。
お菓子会社の陰謀だのなんだのと世間で騒ぐ奴もいるが、
もはやそれが一般常識となってしまった今、その叫びは貰えない奴のひがみにしか聞こえない。
むしろ最近では友チョコだの逆チョコだのと本来の目的を見失うような習慣まで生まれ始めた。
だから困るのだ。そもそもバレンタインにチョコレートを贈る相手はイコールして意中の人に限られねばならないはずなのだ。
そうだ。そうに決まっている。
でなければ今、俺はこんな思いなどしていない。


始まりは,マキュアの我が儘からだった。



「デザーム様ー。マキュア、バレンタインにデザーム様からチョコ欲しいです!」


そんな言葉が耳に入った時、発狂するかと思った。
そんなストレートに、そんなに、あっさりと!!
自分が言いだしたくても言いだせない事を!あろうことかこの女が…!
そんなゼルの嫉妬心など分かる訳もなく、当のデザームはマキュアの言葉に首を傾げた。

「…バレンタインにチョコを渡すのは、恋人にではないのか?」

そう。本来バレンタインというものはそう言う行事だ。
デザームの中でバレンタインという行事が正しく認識されている事に歓喜しつつ、
ゼルは冷静を装って全神経をマキュアとデザームの言葉を聞くために聴覚へと傾ける。

「それはそうなんですけど。最近は日頃の感謝とか友情の確認みたいな感じで
 友達とか同僚に送る『友チョコ』っていうのがあるんですよ?」
「ほう」
「だから、デザーム様からそう言うの貰えたらマキュア嬉しいなぁーって!」

マキュアも上手い事いいますねぇ。などと、隣で笑うメトロンを殴り飛ばしたい。
そんな悠長な事を言っていられる状況ではないのだ。自分にとっては。
この目前に迫ったバレンタインと言う行事に対して,ゼルは一種の覚悟のようなものを抱いていた。
本来、バレンタインは意中の人にチョコを贈るもの。
もし、そうやって正しくデザームの中に『バレンタイン』という行事が認識されていたとしたら。




そんな日に、もし目的のものを貰えたら、どれだけ幸せな事だろう?




ゼルはデザームが好きだ。
最初は尊敬の念ばかりが先行していたが、それが度を超えたのか、なんなのかはよくわからない。
だが、気づいたときにはたまらなく目の前の人物を好きになっていた。
見ていてほしいと、ずっとそばにいたいと。
そんな想いをひた隠しにしてどれほどの歳月がながれたことか。
もはや周りにもバレバレで、メトロンからは最近では呆れたような目で見られる始末。
やはり後で一発殴るべきだろうか。
ゼルはひとり、思考の泥沼へ沈んで行く。




「そうか。ならば、作ろう」




沈みかけたゼルをもの凄い力で引きずり上げたのは、デザームのそんな一言だった。
承諾した。あの方が。
一つ頷いたデザームに、やったぁ!とはしゃいで飛びつくマキュアに嫉妬心以外の何も湧かない。
ああ!畜生!!デザーム様に触るな!!などと無理な事を胸中でさけんでもどうしようもなく、
ますます眉間に寄せた皺を深くするゼルに、痺れを切らせたメトロンが声をかける。

「…ゼルさん、顔、怖いですよ」
「やかましい。これが冷静でいられるか」
「ゼルさんも言えば良いじゃないですか。『自分もチョコが欲しい』って」
「馬鹿野郎。本命じゃねーと意味がねぇんだよ!」
「…と、言いながら義理も友チョコも貰えなかったら不憫この上ないと思うんですけど」
「………………」

メトロンの言葉に、ゼルは固まる。
確かにそうだ。自分は今までデザームを尊敬している。ということは腐るほど言葉にして来たが、
マキュアのように好意を口に出した事は一度もない。
ひとえにばっさりと切り捨てられるのが怖いから、という理由もあるのだが、それは今は関係ない。
そんな自分が果たして彼から意味を問わず、それ自体を貰えなければ、意味がないのではないか。
それこそ、自分は立ち直れないほどまで落ち込むのではないだろうか。

「………決めたぞ。メトロン」
「はいはい。何をですか?」
「デザーム様のチョコ作りの手伝いに行く、そして味見と称して少し食べる。………完璧だ」
「…予想以上に小さい男だったんですね。ゼルさんって」

とりあえず、殴り飛ばしておいた。



















施設内にもうけられた調理場。
先ほど買い出しに行くといって出て行ったデザームが戻って来た事を確認したゼルは、その部屋の前に立ち尽くしていた。
小さかろうが大きかろうが関係ない。男としてもらえないということがさけるべき第一項目だ。
手伝うと言っても、自分に出来る事があるかどうかはわからない。
なんだかんだでデザームは器用だ。料理に始まり裁縫等も得意だという事は知っている。
自分も苦手な方ではないので、なんとか、というより何としてでも手伝わねば。
先ほど立てた作戦が何の意味もなさなくなってしまう。
意気込んで、ゼルはついに部屋のドアノブに手をかけた。

「失礼しま、す………!!」
「……?」

部屋を開けた途端、ゼルは完全に停止する。
問題は、そんなゼルを何事かという目で見ている張本人にあった。
おそらく料理をするために邪魔になるのであろう。
普段は首周りに巻き付けている髪を後ろで一つにまとめあげている。
いつもは隠されていて見えないデザームの首周りを見て、おそらくゼルは硬直していた。

「……ゼル?」
「っは!!はい!!?」
「どうした。何かあったか」

明らかに気が動転しているゼルを前に、怪訝そうに首を傾げるデザーム。
周りから「もはや病気だ」と呆れられるほどまでデザームに陶酔しているゼルにとっては殺傷能力は抜群だ。
必死に平常心を保ちながら、ゼルは首を取れんばかりの勢いで左右に振る。

「な、何かお手伝いできる事があればと思いまして!」
「そうか。すまないな」

では、頼む。そう言われるだけでもゼルは有頂天だ。
先ほどまでの緊張はどこへやら、喜び勇んでデザームの元へと駆け寄る。

「…多いですね…」
「13人分だ」
「…?」

机の上に並べられた材料の多さに驚きながらも、デザームの述べた人数に首を傾げる。
マキュアの言う「友チョコ」を作るのだとしたら、イプシロンメンバーはデザームを除き10人のはず。
首を傾げているゼルにちらと視線を向け、手は調理を続けたままデザームはゼルの心を読んだかのように口を開いた。

「グラン様やガゼル様、バーン様に見つかってな。『ならば俺たちにも寄越せ』とせびられた」
「…………そ、そうでしたか…」

あの野郎。デザーム様にせびるとはどういう了見だ。と自分より格上のチームに苛立ちながらも、
追加分が3人という事は自分もきちんと貰えるのだ。という事実に歓喜する。
最初に考えていたみみっちい作戦などどこかへ飛んで行ったらしい。
ゼルは意気込んでデザームの手伝いを開始した。
もはや本来の目的である「本命を貰う」という事を完全に忘れて。








「あ。これが俺、最後です」
「そうか。私の方も終わりだ」

出来上がった物を一つ一つ個別に包装して行き、完成。
13個作るといっても2人で作ってしまえば何という事はない。
作業はゼルのはりきりも相まってスムーズに進行して行った。

「すまなかったな。ゼルよ。助かった」
「い、いえ!もったいないお言葉です!!」

並べられた完成品を一つの袋にまとめるデザームの手元を見ながら、ゼルはデザームのねぎらいの言葉に心を踊らせる。
デザームの力になれた上、それを貰えるだけでももう十分だというのに、感謝の言葉までかけられては嬉しくて死んでしまいそうだ。
本命だの義理だの友だのもうなんだっていい。貰えればそれでいい。
情けない事だが本人は喜んでいるのだから良しとしよう。

「ゼル」

デザームの傍で上機嫌で道具の片付けを始めたゼルに、ふと、声がかかる。
何事かと勢いよく顔を上げたゼルの目の前に突き出される一つの袋。
可愛らしく包装されたそれからは、僅かに甘い香り。

「…デザーム様?」
「少し早いが、先にやろう」

突き出された袋の向こうで、デザームがふと笑う。
その袋が何であるか瞬時に理解したゼルは、震える両手で恭しくそれを受け取る。
ずっと前から欲しかったものが、今、目の前にあった。

「…あ、ああああありがとうございます!!」
「うむ」

歓喜に震えるゼルが、穴が開くほど袋を見つめて、ふとある事に気づく。
先ほどまで自分が手伝って包装していた袋。
ゼルの手元にあるものは、それとは明らかにデザインが違っていた。
確かに13枚入りなどという中途半端な枚数で売っている袋もないかもしれないが。
なんとなく違和感を感じて首を傾げる。



「本当は、お前だけに作るつもりだったのだがな」



デザームの呟きに、ゼルの思考回路が完全に停止する。


「……へ?」
「本命にだけ送るものだと思っていたのだが…なるほど、こういうものもあったのか」

イプシロン全員分+αが詰まった袋を眺めながら1人感慨深く頷くデザーム。
だが、ゼルはそれどころではない。
自分にだけ、作るつもりだった。
デザームは「バレンタインとは本命にのみチョコを送るもの」と認識していた。
…その2つから導きだされる事など,一つしかないに決まっている。
自分の分だけ、包装袋が違っている説明も、それできちんとついてしまう。

つまり、デザーム様は、

「…ゼル?」

あまりに反応がない事を不思議に思ったのか、固まったままのゼルの眼前で手を振るデザーム。
本人に全く照れた素振りはなく、無自覚で先ほどの言葉を呟いた事を物語っていた。
だが、ゼルにはそんなこと関係ない。
デザームの言った言葉そのものに、意味があるのだ。

「…………ぜ、ゼル!?」

ぐらり。と傾いたと思えば、その場に硬直したまま倒れ込む。
手に持ったチョコレートは、掲げるように守っているあたりさすがというべきだろう。
いきなり倒れたゼルに驚き、デザームが覗き込めばゼルは白目を剥いて気絶していた。
いや、心ここに非ずというべきか。
この場にメトロンやクリプトがいたならば、きっと可哀想なものを見るような目で見られていた事だろう。

死因は「喜び死に」だと、冗談めいて笑いながら。



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