一ツ目行脚 [その他]


鉈幽鉈っぽいかもしれない幽谷過去捏造話。
過去捏造などが苦手な方は回れ右でお願いします。
基本は尾刈斗が皆仲良ければ良いよ!という思考のもと書いてます(笑)



大丈夫!!という方は続きからどうぞー^^










『今日はなにしてあそぼうか』
『かくれんぼがいいなぁ』
『じゃあそうしよう』
『だったらあそこにいる子もさそおうよ』
『…え?』
『何いってるの?ひろゆきくん』





あそこにひとなんて、だれもいないじゃない








そんな事があったのが幼稚園の頃あたり。
その時自分にはきちんと木の下にいる子供の姿が見えていて。
なのに周りの皆は誰もいない。と言う事にこちらが驚いたのをよく覚えている。
そんな事を何回か繰り返して行けば、「こういう事を言ったら皆に嫌われる」という事が嫌でも理解できるようになった。
だけれども、それはあまりにも遅すぎて。
それをようやく理解した時。
自分に見えるモノが全ての人に見える訳ではないという事を理解したときには、
自分は周りから奇異の目で見られるようになった後だった。

誰かが言った
『博之君は誰もいないのに誰かと話しているから怖い』と。

誰かが言った

『気味が悪い』

と。


十分に幼かった自分がそのあまりにストレートすぎる言葉に傷つくのは当たり前で。
友達だった子たちからその言葉を聞く事が一番辛かった。
大好きだった。自分と遊んでくれる皆が。
大好きだったから、辛かった。
だったら。と自分が思い至った結論はあまりに極端だった。
幼かったからだろう。無知だったからだろう。
だからこそ、自分はその極論を信じ切ってしまった。




そうだ。



自分から、皆にさけられるようになってしまえば良いのだ。と。






そう考えると、自分は皆に見えないモノが見える目を完全に覆った。
わざと不気味に見えるように、赤い瞳がぎょろつく模様をあしらって。
何も見えなくなるのでは。と不安はあったが、何故か覆う前と後では何も変わらなかった。
布越しにも完全に外が見えた。
それを人に話せば、さらに周りから人がいなくなった。
これで良いと思った。
そうしたら、身近な人から嫌われる事も何もない。

これなら、安心だと。思った。

寂しくもなかった。
友達はあまりいなかったが、周りの皆には見えない人が友達になった。
その中に、サッカーが得意だという人がひとりいた。
暇なときには、その人にサッカーを教えてもらって時間をつぶした。
寂しくは、なかった。






家庭環境は悪くはなかった。
母親も父親も周りとは違う自分に優しかった。
むしろ、凄い力だと褒めてくれた。
目を覆ったときも、怒られなかった。
母親は裏表のない笑顔で、「格好いいわね」と言ってくれた。
卑屈になってはいなかったから、それが素直に嬉しかった。
この2人だけは、自分を嫌わない。それが、嬉しかった。
そんな母親が、中学進学のときに進めて来た一つの学校。

尾刈斗中等学校。

本当は自宅の近くに別の学校も存在していた。
尾刈斗は自分の家から随分離れていたが、親は電車やバスで通学すれば良い。と言った。
どんな学校なのか。というのはいまいち分からなかったが、どこでも同じだろう。と考え。
一つ頷き、その中学校への入学が決まった。


難しい試験や面接もなく、入学は実にスムーズだった。
学校の情報をひとまとめにした冊子を眺めながら、不意に部活の項目に目が止まる。
運動は昔から好きだった。
それに、昔から時間があるときに必ずやっていたこと。
サッカー。
その単語を部活欄に見つけて、自然とそこに足を運んでいる自分がいた。



部室はすぐに見つかった。
入り口に掲げられた「サッカー部」の文字と「新入部員募集中」の文字。
だが、見つける事は容易かったが、扉を開ける事は容易くはなかった。
今まで一番自分がさけて来た事。人と関わる事。
ここを開けたら、昔のようにはいかないのだ。
昔は自分から人にさけられるようにとつとめて来た。
だが、今回は自分から入部を希望しに赴く。
さけられるようにつとめるのはそれと矛盾してしまう。
今までの生き方と違う生き方をしなければいけない。
それが酷く難しく、酷く恐ろしいもののように感じた。


「入部希望者か?」


不意に、かけられた声に思わずびくつく。
おそるおそるその声の主を顧みて、唖然とした。


白い、仮面。


それは、目元を布で覆い隠した自分が見ても、異常だった。
ここは学校内だ。なのに目の前の男は顔全体を白い仮面で覆い隠している。
目に当たる部分はさすがにくりぬかれて穴が開いているが、薄暗くて目を見る事は叶わない。
しばらく呆然としていると、白い仮面の奥から再びくぐもった声が聞こえた。

「お前、目は」

どうともとれる必要最低限の要素だけ抜き取った言葉。
目は、怪我でもしているのか。
目は、見えないのか。
目は、見えているのか。
目は、何故隠しているのか。
そのどれだろうと考えた結果、自分は一言、見えます。とだけ返した。
ただ、それだけの短いやりとり、目の前の仮面が、僅かに微笑んだ気がした。

「なら、来い」

扉に手をかけ、手招きされる。
そこでようやく目の前の仮面がサッカー部員である事を知った。
それでもなお前に踏み出す事を躊躇う自分を見て、肩をすくめる。
同時に聞こえたくぐもった笑い声で、呆れられている訳ではない。と知った。
そんな自分を尻目に、目の前の仮面はがらりと部室の扉を開ける。
一気に、中の喧噪が外へと流れ込んで来た。

「よー!鉈!遅かったなぁ!」
「掃除当番で残ってました」
「あ。じゃあ俺もそうだった?」
「そうだ馬鹿野郎。人に全部押し付けやがって」
「いや、俺はさっきちょっとあの世とこの世の狭間をだな…」
「……八墓。あとでそこの馬鹿呪っといてくれ」
「あ!嘘嘘!!八墓の呪いだけは勘弁!」
「…黒上。今晩2時に神社に集合ね」
「はーい」
「えぇええええ!?ちょっ…確定!?」

喧噪にまぎれて非現実的な言葉が飛び出す。
聞き間違いかなにかだろうか。と中の様子をうかがい知れないまま部室の外で一人たたずむ。
そんな自分の耳に、先ほどのくぐもった声が再び響いた。

「そうだ。そこに入部希望者が来てるぞ」
「え!マジか!!」
「新入部員だー!!」
「どんな子?どんな子?」
「……ポジションどこかなぁ?」

喧噪の内容が一気に自分に関するものになる。
これは困った。まだ、心の準備ができていないというのに。
そんな心配をよそに、先ほどの仮面が再び部室の外に姿を現す。
そして、自分の背中を、トン。と押した。
自然に前に出る足。前に踏み出した瞬間、隣の仮面が囁いた。




大丈夫だ。と。





「その子?」
「なぁなぁ!!名前は?名前は?」
「ポジションはどこ希望?」
「今狙い目はFWとMFかなぁ」
「あ、でも好きなとこ選んでいいから!!」

矢継ぎ早に降り掛かる言葉に、目を白黒させる。
最初に出会った仮面も衝撃的だったが、中には更に個性的な面子がいた。
頭に蝋燭を挿していたり、黒いフードを被っていたり、その外見は様々だ。
対応にほとほと困っていると、自分が一番気にしていた事を、取り上げられた。

「なあ!そのバンダナどうしたんだよ?」

聞いて来たのは褐色肌で、一番元気のいい人物だった。
一瞬、ビクリとしてしまう。

「目、見えないの?」
「…いえ、見えます」
「え?じゃあ透視能力あるの!?」
「……おそらく」

自分でも自信はない。だか、この能力に名前を付けるならおそらくそれになるのだろう。
一気にわき上がる周りに、逆に萎縮してしまう。
それからはサッカーの経験はあるのか。など部活に関する質問が飛び出したので、そこには無難に答えて行く。
テンポよくどんどん聞かれるため、だれに教わったのか。という質問に、素直に答えてしまったのは自分でも良くなかったと思う。
名前を言った瞬間、周りが固まった。

「…え?その選手,確か随分前に死んだんじゃなかったっけ?」
「だよな?オレもなんか聞いた事あるし」
「………え?ひょっとして、見えるの?」

逃げられない。と思った。
全員の視線がこちらに注がれているのがよくわかる。
嫌われるのも良いだろう。最初からそうした方が、きっとずっと気が楽だ。
嫌われるのではないかとびくびくしなくてすむのだから。

「…はい」

小さく肯定。
一瞬静まり返ったその場に、思わずぎゅっと手を握る。
ここでも友達はできないだろう。それでも別に構わない。もう、慣れたから。
静かに俯くが、どうやら新しいこの場は、自分をいつも通りに返してはくれなかった。

「……すっげぇええええ!!」
「霊能力者だ!!ウチの部初の!!」
「…ねえ、じゃあ今度僕らの呪術の手伝いしてよ」
「見えるなら都合いいしさ!」
「これから三途がいきなり幽体離脱しても安心ですね」
「あー。よかったー。これで衰弱死の心配なくなったー」
「じゃあ今度心霊スポット巡りしようぜ」
「あれ分かる奴誰もいないからつまんなかったんだよなぁ」

爆発的に盛り上がる場。
未だかつて経験した事のない反応。
純粋に、自分の力を祝福してくれるこの場が、異常であり、温かかった。
あっけにとられる自分の隣で、仮面が笑う。
大丈夫だったろ?と、まるでそういいたげに。

「はいはい。皆さん今日も元気ですねぇ」
「あ。監督!新入部員!!霊能力者だってよ!!」

がらり、と扉が開き、柔和な笑顔を浮かべた男が部室の中に姿を現す。
部員の口ぶりから見ると、監督らしい。
ふ、と目が合えば、にこりと微笑まれた。

「初めまして。サッカー部監督の地木流灰人と申します。
 …ええと。名前は?」
「…あ。幽谷です。幽谷博之」
「幽谷君ですね。じゃあ後で入部届けを渡してもらえますか?」
「……は、はい」

幽谷の躊躇いながらの返事に、再び柔和な笑顔を返す。
そして、そのまま部員たちの方を向き、パン。と一回手を叩いた。

「はい。じゃあ新入部員の幽谷君も入った事ですし、尾刈斗サッカー部の戦力アップに期待も持てそうです。
 …ですけども、」

柔和な雰囲気が、一転。

「手前らとっくに部活開始時間すぎてんだよ!!とっとと準備始めやがれこのウスノロどもがぁあッ!!」

ドスの聞いた声で一喝すると、部員が蜘蛛の子を散らしたように走り出す。
そんな彼らを追い立てるように監督も部室を出れば、嵐が去ったように静まる部室。
そんな中に取り残された幽谷の横で、鉈が再び静かに微笑んだ。

「監督は二重人格なんだ」

グラウンドで激を飛ばすその人は、確かに先ほど自分に声をかけた者とはまるで別人だ。
ぽかんとしていると、鉈に背中を叩かれる。
部室に入ったときと同じように力強く。

「そういう所だ。ここは、だから、心配しなくて良い」

全部、受け止めてもらえるぞ。ここは。
そう言って笑ったように見える仮面を前に、幽谷はじわじわと喜びをかみしめた。
さけられない。怖がられない。気味悪がられない。
小さい頃から望んでいたものが、一気に手に入ったように感じた。
泣きそうになっていることに気づいた時、ひとりでも大丈夫だと思っていたことがやせ我慢だと気づく。
仲間も、家庭以外で安心できる場所も、自分を受け入れてくれる場所も。
全部、全部欲しかった。昔からずっと、ずっと。
幽谷は、知らずに微笑み、グラウンドを見やる。
今日は曇り空。雨は降らないらしい。なのに、たまらなく、嬉しい。

「ありがとうございます」
「なんで礼を言う」

眺めているとグラウンドの面子に声をかけられる。
その声に応じて、駆け出す幽谷だったが、不意に足を止め、鉈を顧みる。
何事だろう。と首を傾げる鉈。

「さっきから気になってたんですけど、先輩の足下に猫の霊が2匹くらいいますよ!」
「……えっ?」
「害はないと思うんで、安心してください!」

焦って足下を見る鉈に、微笑みを返す。
こんなに、自分の感じることや思う事を言えるのは気持ちのいい事だったのか。
そう思えば,自然と足取りは軽くなった。



多分、ここに、自分の欲しかった物が全部ある。
ここにたどり着くために、自分は生まれたのかもしれない。



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ふかみ

初めまして。
ピカイナリから『幽谷』で参りました!
幽谷さん凄く好きなんです。
可愛いんですとっても!!^^

SS拝見しました。
とっても感動しました。
涙が出ました…
幽谷さんのバンダナのねつ造の理由、他の方のお話も今まで読ませていただいたんですが、紅白黒様のこちらのSSが一番良かったです!
ひろくん良かったね^^

いいお話をありがとうございましたm(__)m
by ふかみ (2010-08-30 01:16) 

紅白黒

>ふかみ様
初めましてー。コメントありがとうございます^^
辺境の地によくぞお越しくださいました!(笑)

SS感想ありがとうございます…!!
本当に嬉しいお言葉ばかり…!書いた本人としては本当に感無量でございます…!
尾刈斗は他の学校に比べて特殊な子たちに対して寛容な気がしまして。
だとしたらそう言う子たちにとっては本当に過ごしやすい場所なのではないかと^^
だから団結力も強かったり皆仲良しだと良いな!という妄想がですね…(殴)

な、なんにせよ、感想ありがとうございました!!
励みに頑張らせていただきますー!!

by 紅白黒 (2010-09-07 01:01) 

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