名前を呼んで：レミングの行進：SSブログ

	ブログをはじめるログイン

名前を呼んで　[鬼受け] [編集]

久々に小説。平日はプレイ記の方そんなに書けないと思うので、
小説UPするゆとりが出来ると思います…。ストックそんなにありませんけど。
今、地味に忙しい…！

続きから源鬼。いつも通りの２人です。このバカップルどうにかしてくれ。

一緒にいられれば幸せで、
たまに、一緒にどこかにでかけたりして、
勇気があれば手とかつないだり、　
そして、さらに勇気があればキスとか頑張ってしてみたり。

そんな端から見るともどかしいのだろうが、自分たちは満足しているあり方。
別に不満も物足りなさもなかったのだが。

「…恋人同士は、名前で呼び合うものなのか？」
「…………は？」

鬼道が唐突に、そんな事を言い出した。

話を詳しく聞いて行けば、やはりというか妹の話題に行き着いた。
色恋沙汰の話題となれば、大体鬼道の情報源は妹だ。
チームメイトや他の友人には恥ずかしくてそう言う事は聞けないらしい。
そんな、彼の唯一の恋愛相談の相手と昨日電話で会話をしたようで。
話は昨晩までさかのぼった。

『そうだ！！聞いてお兄ちゃん！新聞部の先輩にね彼氏ができたんだって！』
「そうなのか」
『うん！その先輩すっごい幸せそうだったんだー…先輩他の皆の事は名字で呼ぶのに
　その彼氏さんと話してるときだけは名前で呼び合ったりしてラブラブなの』
「…そういうものなのか？」
『やっぱり親しみがでるんじゃないかなぁ？名前で呼んだ方が』

そこで、『お兄ちゃんには恋人いないの！？』などという話題に入ってしまい、
慌てて話題をすり替えたためそれ以上は聞けなかったらしい。
しかし、なぜそれを恋人である俺に聞く。
源田は内心冷や汗を流しながら真剣に悩む鬼道の表情を眺めていた。
その話はつまり、自分に鬼道の事を名前で呼べという話に繋がりかねない。
…さすがに、それは高度すぎる。

「…よ、呼んでほしいのか？」
「？」
「鬼道も、その…下の名前で」

ここで頷かれたら、自分は腹をくくるしかない。

「別に今のままでも不満はない」
「そ、そうか」

あっさりと言ってのけた鬼道に、思わず源田は脱力する。
別に呼びたくないわけではないのだ。
鬼道とより親密になれるのならばそれに越した事はない。
だが、鬼道はあまり心の底から名前で呼ばれる事は期待していないようだ。
ならば無理に呼ぶ必要はないかと、源田は些か情けないものの安心する。…だが、

「…幸次郎」

静止。

こうじろう。幸次郎…ああ、誰の名前だったか。
…そうか。俺の名前だ。と源田が気づいた時、再び頭が真っ白になった。
ゆっくりと鬼道の方を見れば、視線はしっかりとこちらにむけられていた。
なんでお前はそんな、平気な顔して…！！

「…どうした？やはり違和感があったか？」

固まっている源田を不審に思った鬼道が真面目な顔をして眉根に皺を寄せる。
おそらく鬼道は実験的に源田の名前を呼んだにすぎないのだろう。
馬鹿みたいに真面目なせいか、そういうところは何かズレている。
ゆっくりと現実に戻って来た源田は、思わず赤くなった顔を背けて、
鬼道に見えないところで狼狽する。
そんな源田の様子を訝しんで、鬼道はどうにかして源田の顔を覗き込もうとする。

「幸次郎？」

ああ、また。
無自覚ほど恐ろしいものはないとどこかで聞いた事がある。
まさにその通りだと思ったときには、なんだか色々吹っ切れていて。
狼狽だとか恥ずかしさだとかそう言ったものが薄れて行ったときには、
源田の中に何とも言えないむず痒さがわき上がっていた。
ようするに、少しだけ嬉しいのだ。鬼道に名前を呼ばれて。

「なんでもない」
「…そうか」

比較的平然とした顔で、鬼道に笑いかければなにか腑に落ちないような顔をされる。

「有人」

静止。

今度は鬼道が固まった。
最初は惚けた表情をしていたが、言葉の意味を理解した途端硬直したのだ。
先ほどの自分を見ているようで、源田は思わず笑みをこぼす。
そして、やはり先ほどの源田のようにみるみる顔を真っ赤にさせると、
「お前」だの「この」だのいまいち繋がっていない単語が飛び出す。
人の事を呼ぶのは平気なくせに、自分が呼ばれるのは駄目なのか。
目の前でおたおたとするズレた恋人になんだか愛おしさが募って来て、
思わず笑いながら抱きしめてやった。

2009-10-07 00:19 nice!(0) コメント(2)